COLUMNコラム

2023.4.19

止まらないリンの需要、止まらないリンの枯渇

リンとは何か

リンと聞いてピンとくる人は少ないのではないでしょうか?しかしリンは人間が生きていく上で紛れもなく欠かせない元素なのです。例えばあなたの骨格を形成している骨ですが、これはリン酸カルシウムで構成されていて、リンとカルシウムが主原料になっています。また細胞がリンの受け渡しをすることでエネルギーを生成し、我々は身体を動かすことが可能になっているのです。食料生産においてもリンの占める役割は大きいです。化学肥料は窒素・リン酸・カリウムによって構成されています。この中でリンは植物の開花を促進し、実入りを増やす肥料として必要で高効率な食料生産をする上では絶対に欠かすことのできない肥料です。その結果、世界規模では年々需要量は拡大し、それに伴ってリン鉱石の採掘量も増加の一途をたどっています。

 

リンの枯渇

世界のリン需要が2050年までに50%から100%増加する一方で、リン鉱石の採掘量自体は2040年頃に頭打ちになるとされています。耐用年数自体も残り50年から100年程度と言われており、その枯渇がいま非常に危惧されています。単純なリン鉱石の埋蔵量以外にもリン鉱石自体にも品質の良し悪しがあり、質の良いリン鉱石はすでに地球規模で枯渇を始めています。これは「ピークリン」と呼ばれ、経済とエネルギー的な制約のために生産が需要に対応できなくなる時期を指しています。これはもはや2030年には起こると言われているのです。加えて日本にとって不都合なのは、このリン鉱石を保有する国が一部の国に限られていて、日本の場合は全くリン鉱石を保有していないという点です。現在の埋蔵量はモロッコがほとんどを占めており、次いで中国、アルジェリアが続きます。生産量自体は中国が一大生産国で、次いでモロッコ、アメリカ、ロシアが続きます。

 

リン供給の危機

勘の良い方ならお分かりではないでしょうか?このリン鉱石を保有している国が今の国際情勢の中心の国でもあるのです。最近では中国がリン鉱石の出し渋りをしたことでリン価格が急騰したことがありました。またモロッコに関してはヨーロッパ圏の供給先としても大きな役割を果たしており、有事の際は日本への流通が制限される恐れがあります。日本では現在中国とモロッコを中心に輸入をしていますが、今後の国際情勢次第ではどうなるかわからないのです。事実、ロシアーウクライナ侵攻によりロシアのリン鉱石の物流が滞った影響でリン鉱石の高騰はさらに加速しています。これから先、今まで以上のリン鉱石の高騰が予想されます。リン鉱石の高騰は食料生産コストの高騰に直結し、我々の生活に大きな影響を与えます。特に中国からの輸入に頼っている日本はいわば、中国のおかげで食料生産を行えている実情があるのです。これは食料安全保障の観点から見ると非常に大きなリスクです。

希望の光となる技術開発

では来る物価高騰を我々日本はただ待っているしかないのかといえば、日本ではリン回収の技術開発が進んでいます。実際に肥料として使われたリンは100%植物に吸収されるわけではなく、吸収されなかったりんは雨水と共に土壌に染み出し、河口に流れ込んでいきます。この流れ込んだ高濃度のリンが湖沼の富栄養化を引き起こし、アオコの発生などの原因になっていることが最近わかってきました。こうした河口に流れこむ高濃度のリンを回収することで、リンの再利用のみならずアオコをはじめとする環境問題の解決を目指していくのが、これからの日本のあるべき姿だといえます。

これまであまりリンについて考えることは少なかったかもしれませんが、実は我々人類の生活を支えていたいのちの元素「リン」について今一度注目してみてはいかがでしょうか?

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